メッセージ

message TAKAKO EGAWA

学長江川隆子

自分を大切にできない人が、誰かを大切にできるはずがない。

看護師で一番大切なのは「人を思いやれる、強い心」だと私は思っています。看護は、いつもより弱っている状態の人に寄り添う仕事です。その人に共感しつつも、状況に飲み込まれず、感情に振り回されず、客観的であらねばなりません。時には患者さんの立場に立ち、医師にNoと言わなければならないことすらもあります。看護師である以前に、自分で自分を大切にすることができる自立した人間であることが重要です。
本学の学生たちを見ていても、その思いは強まるばかりです。看護の勉強は決して甘いものではありません。臨地実習などでは目の前の現実として自分の至らなさを突き付けられることもあるでしょう。しかし、大きな壁にぶつかった学生ほど、卒業後に立派な看護師になることが多いのもまた事実です。本学では、実習時も教員が一人ひとりに寄り添い、その大変な期間をごまかすことなく共に乗り越えていきます。「人を思いやる」それを看護の現場で体験した学生たちは、自分自身に対する意識も、他の人に対する意識も大きく変容し、想像を超える成長を果たします。
看護師の仕事は、患者さんと同じ症状にはなれないけれど、自分がその患者さんだったらどうして欲しいかを想像していくことの連続です。そして、共感するということは、同じ感情に浸ることではなく、相手の立場になって考えることです。患者さんの一挙一動を客観的に観察し、自分の感情を挟むことなく想像していく。それを可能にする心の強さこそ、プロとして自分の仕事に責任を持つために一番必要なことだと私は思います。

message AYAKO OKUTSU

看護学部看護学科 学科長/教授奥津文子

あなたを信じる、という教え方もある。

JICAの看護教育プロジェクトの一員としてスリランカに3カ月赴任したことがありました。看護師の臨床実習の現場となる国立病院に入ってそこの教育システムを整え、指導者を育成するというのが私の任務です。
現在はもう見る影もありませんが、当時のスリランカの病院の状態はまるで戦後すぐの日本のよう。働く看護師さんたちも、皆さんとても温かい心でケアされているのですが、いかんせん看護の知識が少ないままの状態で、教科書通りの対応をどの患者さんにも一律に行っていました。そのときに私が口を酸っぱくして皆さんに伝えたのは「パターンで仕事をするのではなく、患者さん一人ひとりの状況をしっかり見てアセスメント*していきましょう」ということでした。
それから20年が経った今も、学生に同じ話をよくしています。本学が看護を学ぶ上で中心に据えている「看護診断」は看護を極めたいなら必須の技術です。今ではこれを丁寧に教えてくれる場所は少なくなっていますが、卒業生からも「看護を論理的に進めるのに看護診断が必要だということが現場に出てやっと分かった」との声をもらうことも多く、本学では引き続き看護診断をしっかり学生に伝えていくことに注力したいと思います。
この仕事に就いて30年以上になりますが、一番感じているのは「学生自身に育っていく力が必ずある」ということです。教授という立場ですが、“教える”わけではないのだということによく気付かされます。雑草を抜いて土を耕すだけで、ある日突然むくむくっと成長する瞬間が来る。それをただ見守るだけ。光る部分は必ずあり、一人ひとりの持つ種がうまく芽を吹いて伸びていってもらえたら…そんな思いでいつも側にいさせてもらっています。
*ものごとを客観的に評価、査定すること